福本漫画の簡素レビュー 後編
今回も福本漫画の紹介記事の後編として『賭博破戒録カイジ』、『銀と金』、『最強伝説黒沢』、『熱いぜ辺ちゃん』の4つをご紹介したいと思います。
これらも前回紹介した4つに劣らない素晴らしい作品なのでよろしければ手に取ってください。それでは紹介に移りたいと思います。
賭博破戒録カイジ
僕個人の評価:黙示録には及ばないけど、まあまあ良作。知名度は高い(3点)。
カイジシリーズの2作目です。こちらは前回と打って変わって、チンチロやパチンコなど、技術介入や心理戦の介入の余地がなさそうなギャンブルになっています。
そのためこれらのギャンブルでカイジたちは敵の不正な勝ち筋をどのように攻略していくかという形で切り込んでいくことになります。黙示録と路線が少し変わっていますが差別化できているとも思います。
ですが黙示録の利根川戦が不正な勝ち筋の攻略+心理戦だったことを考えると少し物足りないように思います。他にも1勝負がとても長く感じられます。特にパチンコ編はパチンコを打ち続けている時間がとても長く、冗長に感じられます。
地下チンチロは見どころもあり怠惰に流されていくカイジがそれを克服して班長を打ち負かしていく流れなどは面白いので、個人的には前半部は好きです。
名作カイジシリーズの2作目なので黙示録が良くてそのまま続けて読む人が多いのではないでしょうか?それぐらいの認識で良いかなとも思う作品です。良すぎることもないし、悪すぎることもない。福本氏の作品の中では手堅く無難な作品かと思います。
黙示録の限定ジャンケンの回はとても良いのでそれを超えろというのは難しいとは思います。まあ、安定した正統後継作といった印象で良いのではないでしょうか。カイジシリーズが好きな人ならまず間違いなく読んで良い作品だと思います。
銀と金
個人的な評価:初期の大傑作。個人的には最高傑作。大人向けの渋い作品(5点)。
個人的にはこれを紹介したいから書いた記事といっても過言ではありません。政治・経済を中心に野望を抱く男たちがさまざまな策略を働かせ、金を得ていくストーリーです。
最初から株の仕手株の話や企業と政治の癒着をテーマとした話なだけに、カイジシリーズとは違い、基本として必要な知識のレベルが高いのが難点です。ですが、徐々にわかりやすい話も増えてはきます。
物語の本質である福本氏の人生観は面白いので、難しい知識を抜きにしても十分楽しめるようになっております。
悪党の世界を中心にしていくのでカイジシリーズのように暗い雰囲気がありますが、主人公の森田はカイジ同様善人なのでカイジシリーズと同じように楽しめると思います。
一番の売りは一勝負の短さです。中期以降のカイジシリーズやアカギの鷲巣麻雀などを比較に出すのは卑怯かもですが、福本作品の中では異例の短さで1勝負が2巻程度で楽しめます。全11巻ですが5~6勝負ぐらい行われ完結している計算ですね。
単純比較ですが、『賭博破戒録カイジ』がパチンコとチンチロの2勝負で13巻であることを考えれば、キレのある勝負をぎゅっと詰め込んだ作品だとわかりやすいかと思います。
福本氏の売りのオリジナルギャンブルも面白く、「ポーカーと麻雀を足した西京麻雀」は作中屈指の面白さではないでしょうか?
敵役である蔵前は西京麻雀のあらゆる要素を駆使して森田を追い詰めてきます。それゆえに西京麻雀のルールの奥深さや面白さがいかんなく発揮されております。ここをどう逆転するのかは必見です。
この勝負もわずか2巻ほどで決着を迎えるのだから、その濃厚さは推して知るべしではないでしょうか?この面白さはまさに出し惜しみなしと強く言い切れます。
惜しむところがあるとすれば森田の終盤の決断や、打ち切りみたいな最後ですかね。ここさえなければ完璧でしたが、そもそもこの11巻の出来が神がかっているので、そんなことは抜きに楽しめれば良い作品だと確信しています。圧倒的名作っ……(笑)。
最強伝説 黒沢
個人的評価:ギャンブルをしない福本漫画だが面白さの神髄は変わらずの秀作(4点)。
最強伝説黒沢は43歳の黒沢が自分の人生で何1つ築いていないことに気付いて焦り始めて具体的な行動で人望を獲得しようと始めるところから物語はスタートします。
40代で人脈・財産・称号とほぼ何1つもたない。そんな黒沢の第1巻の悲痛な心の叫びは見ていて非常に辛いです。
ですが、現実として受け入れなければもしかしたら自分もこうなるかもと危機感を持たせてくれる内容になっています。
この作品の見せ場はそこからの逆転劇です。試行と錯誤の末に少しずつ黒沢の危機感をもった行動は良い方向に向かって行き、彼の人生は好転していきます。
黒沢の人生がどのように好転していくかも見ものですが彼の人生観も面白いです。日常生活を中心としており、労働を通じて福本節全開の人生観を話されるのは身近な感じがあり、よりリアルに受け止められます。ギャンブル漫画の『銀と金』や『カイジシリーズ』にはない魅力といえるでしょう。
第一巻を読んだだけでしばらく放置していましたが、完結間際ぐらいに友人に教えてもらい一気読みしました。とても良い作品です。
どちらかといえば大人向けです。30前後から40歳の方に強く響きそうな作品です。主たる魅力が人生訓と非日常パートなので分かりやすい面白さは少な目ではあります。
ですが福本節を使ったギャグパートなどがあり、これがまたほかの作品にない面白さでもあるのも魅力です(笑)。
話のテンポも本作はかなり良く、『銀と金』に並ぶテンポの良さです。こちらも2巻ぐらいで1つの話が完結しております。間違いなく福本作品屈指の秀作といって過言ではないでしょう。
熱いぜ辺ちゃん
僕個人の評価:小粒ながらも『天』前身となった作品。老人の遺言は屈指の名場面。(3.5点)
福本伸行氏の最初期の作品で、最も古い長期連載作品の『天 天和通りの快男児』よりも古い作品で、のちの『天』に通じるような作品といってよいでしょう。
基本的には麻雀を通じて人生観を語る内容が多く、多くの話は日常人情物といった感じで天の1巻の方向性と同じような感じをイメージしてもらえば概ね間違いないです。
2巻の終盤はのちの『天』の真剣勝負路線をうかがわせるような内容になっており、福本伸行氏の今後の作風を決定づけたといってもいい作品かもしれません。
今まで紹介した長期連載作品と比較すると全2巻で知名度も低いのですが、この作品には強く勧めたい話があります。
それは「気が付くとボーっとしちゃう若者へ」という書き出しから始まるシーンです。このシーンでは人生を無為に過ごしてしまった老人が最後の遺言として主人公辺ちゃんに手紙を書いて残すのですが、その内容が強烈です。
ざっくり書くと「やりたいことは若いうちに挑戦しよう」というメッセージだと受けとめてます。あるいは「保留したり先延ばしにしていると、いつまで経ってもできずに、人生を終えてしまうぞ」とそんな風に思いました。僕の人生に多大な影響を与える名シーンだと確信しています。
これだけ見るために1巻だけ手に入れても良いと思います。長期連載作品と同格に勧めるだけの内容がここに濃縮されていると思います。福本伸行氏の人生観とその面白さが凝縮されたワンシーンといえるでしょう。
終わりに
ここまでに点数付きで8作品紹介しましたが、どれも間違いない名作です。5段階評価が実質機能しておりませんが、2点以下はつける余地がありませんでした。しいて言うなら『アカギ』の鷲巣麻雀編だけ取り上げると2点台ついちゃいますけどね(笑)。
どれも良い作品ですが『銀と金』と『最強伝説黒沢』、『賭博黙示録カイジ』の3作はお勧めできます。麻雀が分かれば『天 天和通りの快男児』も合わせて読んでほしいです。個人的にはこの4作が四天王です。
長々と書いてしまいましたがいかがだったでしょうか?『カイジ』の映画化を機に福本作品をもっと掘り下げて知っていただければと思い、この記事に着手しました。この情報がお役に立てば幸いです。